いちばん高い塔の歌

ランボオ詩集 金子光春訳より

 束縛されて手も足もでない
うつろな青春
こまかい気づかいゆえに、僕は
自分の生涯をふいにした。

 ああ、心がただ一すじに打ち込める
そんな時代は、ふたたび来ないものか?

 僕は、ひとりでつぶやいた。「いいよ。
あわなくたって。
 君と語る無上のよろこびの
約束なんかもうどうでもいい。

 このおもいつめた隠退の決意を
にぶらせてほしくないものだ。」

 かくばかりあわれな心根の
いいようもないやもめぐらし。

聖母マリヤさまのこと以外、
当分、僕はなにも考えまい。

 では一つ、マリヤさまに
お祈りをあげることとしようか。

 金輪際おもい出すまいと
僕はどれほど、つとめたことか。
おかげで、恐怖も、苦しみも、
空高く、飛んでいってしまった。

それだのになぜか、不快な渇きが
僕の血管の血をにごらせている。

 荒れるがままの
牧場のように、
どくむぎと芳香とがいりまじり、
花咲き、はびこる牧場のように、

 不潔な蠅が僕の心に群がって、
わんわんと唸り立てている。

 束縛されて手も足もでない
うつろな青春
こまかい気づかいゆえに、僕は
自分の生涯をふいにした。

 ああ、心がただ一すじに打ち込める
そんな時代は、ふたたび来ないものか?