便所掃除

濱口 國雄          

「男はつらいよ 寅次郎カモメ歌」で、国鉄に勤める定時制高校生が作ったものとして紹介されました。

扉を開けます。
頭の芯までくさくなります。まともに見ることが出来ません。
澄んだ夜明けの空気もくさくします。掃除がいっぺんに嫌になります。
むかつくようなババ糞がかけてあります。
どうして落ち着いてしてくれないのでしょう。
ケツの穴でも曲がっているしょうか。それともよっぽど慌てていたのでしょう。

唇をかみしめ、戸の桟に足をかけます。
静かに水を流します。ババ糞に恐る恐るほうきをあてます。
ボトン、ボトン 便壷に落ちます。
乾いた糞はなかなかとれません。
タワシに砂をつけます。手をつき入れてみがきます。
汚水が顔にかかります。唇にもつきます。
そんなことにかまっていられません。ゴリゴリ美しくするのが目的です。

朝風が壷から顔をなであげます。
心も糞になれてきます。水を流します。雑巾で拭きます。
金かくしの裏までていねいに拭きます。
もう一度、水をかけます。クレゾール液をまきます。
白い浮液から新鮮な一瞬が流れます。
便所を美しくする娘は、美しい子供を生む と言っていた母を思いだします。
ぼくは男です。美しい妻に会えるかもしれません。