青い鳥は、すぐそこに・・・

平成14年8月〜12月ネット上にて公表

以下は、平成14年1月発行、「県職員生協ニュース」に記載された文に、加筆修正を加えたものです。

 バブルが崩壊し、未だどこへ、どう進めばよいのか、誰も明解な答えを得ることができない時代が続いている。

 昔はただ食うために、働かざるを得なかった。しかし、その中に於いても、先人達は、ただ我武者羅に働いていたわけではない。

 宮本常一の名著「忘れられた日本人」の中に出てくる愛知県北設楽郡旧名倉村の古老は言う。「ただ牛や馬のように働くのはだめで・・・。みんなよく工夫もしてきまして、このごろではあなたまかせのものは、あまりおりません。」

 一方、2000年3月に放送が始まり、未だにビジネスマンを中心に熱い支持を得ている「プロジェクトX挑戦者達」というNHKの番組がある。
 そこには、我々が今まで名前も知らなかった無名の技術者や現場担当者達が、極限まで追いつめられた状態の中で、ちょっとしたヒント、助言、あるいは思わぬ協力者を得て、活路を見いだす姿が毎回描かれている。
 ところで、この番組を見て涙した後、あの担当者達は沢山儲かったろうなと思う視聴者がいるであろうか。たぶん、いないと思う。

 それはきっと、我々が、挑戦者達の「成功」という結果に対して感動を覚えるのではなく、そこにいたる過程、真摯なチャレンジ精神に対して感動するからであり、描かれる人々の生き方そのものに、琴線を打ち振るわされる為に違いない。
 文化人類学の船曳建夫は、この番組を、「日本人の生活世界の知恵と価値観と感情を伝える、新しい時代のテレビ民俗学である。」と定義している。

 日本には、昔から現代に続く職人魂がある。それは、山間に暮らす人にも、ビルの谷間で暮らす人にも同じように息づいていて、その生き方には、ささやかではあるが、等身大の「幸せ」があったはずである。
 にもかかわらず、幸福は銭で買うもので、その為には、より効率的に儲けることが大切だと、いつから考えるようになってしまったのか。
 しかし、それがもはや、幻想にしか過ぎないことに我々は気づき始めているのだ。

 作家であり、旋盤工でもある小関智弘は、旋盤工を例に次のように解説する。

 旋盤の命は、「バイト」と呼ばれる刃物にある。その「命」をかつては、職工が自ら鍛冶場で製作していた。それが、いつしか、市販の既製品を研ぐようになり、今では使い捨てのバイトを使用するようになってしまった。そして、その「命」の扱いが変遷するに従い、職工の呼称も、旋盤師から旋盤工、そして旋盤要員と変化していった。

 旋盤に限らず、要員となった労働者は増員が容易なかわりに、その代替も減員も簡単である。つまり、労働者がバイトを使い捨てるようになった時、自らも使い捨て可能な存在となってしまったというわけである。これは組織が効率化を進めた結果だが、その方が手っ取り早く幸せになれると労働者が望んだ結果でもある。

 しかし、ドラッカーが警鐘するように、今や労働者の労働寿命よりも、組織の寿命の方が短いのである(行政組織も同じ)。

 組織内にいる間は、組織のために振る舞うのは仁義というものであろうが、自らのポリシーに反し、ただただ効率化を求める組織に迎合することが果たして正しいかどうか。(もっとも、最近は、組織のことを少しも考えないのに、寄らば大樹のかげ式に、単に組織にしがみついているだけの輩も多いが・・・)

 また、書店をのぞけば、山積みになったビジネス書が、「これからは、組織や一分野のナンバーワンになるよりも、オンリーワンの存在を目指せ!」と吠えまくっている。しかし、ちょいと待っとくれ。何か、大切なことが欠けてはいないか?

 もし、我々の求めるものが、高度成長期やバブル期と同じような刹那的享楽だとしたら、結局は元の木阿弥ではないか。

 ウディ・アレンが描いた本当に「おいしい生活」とは何であったのか。日本の昔話のエンディングは長者様になるのが定番だが、アイヌの昔話はそうではない。(詳しくは、拙著「既公表抜粋 8.21世紀への使命」参照)

 消費経済・物質文明からは脱却し、本当の幸せ、真の豊かさを我々は目指さなくてはならない。ここでもキーワードは共生であろう。

 自然との?いやいや、まず人と人との共生である。
 外国や他民族の人と?いえいえ、まず隣の人とである。

 町内清掃にも参加しない人が、国際協調を叫ぶのはどう考えても感覚が歪だ。

 小さな喜び、ちっぽけな幸せでも、それを分かち合い、共有できる仲間が近くにいれば、きっと世の中が楽しくなる。

 お金ではない何か。千尋が自分の中に見つけたという輝く物。
 グローバルな時代だからこそ、足元で光るものを見逃してはならない。そこにはきっと、ささやかなものかもしれないが、それぞれのプロジェクトXが転がっているはずだ。

 そしてまた、昔からよく言われる次のことを肝に銘じておきたい。

 働くとは、銭を儲けることではなく、「他人(はた)を楽(らく)」にすることである。

(ねむり姫 43歳)